先日、山内の塩縮加工が施された裏地の付いたシャツを紹介したことがあったのですが、今回は、その一重Ver.です。

 

形も違います。

 

以前に紹介したシャツは、現在はサイズ5という一番大きなサイズだけが在庫がある状況なのですが、ブランドでも初めてつくった”絣”の糸を使ったシャツです。

 

“絣(かすり)”は和服で使われている、とても趣のある日本的な生地ではあるのですが、その使われる素材は、コットンであっても、素朴なものが材料とされるのがフツー。

 

で、それを山内の山内さんが、遠州産地(静岡県の綿織物の産地)の福田織物さんとつくった、だいぶグレードアップした、誰が見ても上質で、しかも生地の見え方もとても表情がある日本的な生地。

 

これ、すごい生地。

 

好きな方は好きだと思う。

 

それを使ってるシャツです。

 

 

 

 

 

 

山内

塩縮加工コットン絣格子・セミロングシャツ(羽衿付き)

material _ COTTON 100%

color _ KASURI RED

size _ 2,3,4,5

 

これ。

名前の通り、山内では比較的珍しい、着丈の長めのシャツです。

 

写真で見て分かると思うけど、しっかりと尖りのある衿が付き、全面に絣のチェックが入った生地です。

 

あとは、裾は前がラウンド、後ろがスクエア。

 

 

 

 

 

 

バック。

背中の箇所には、シャツには通常はあるバックヨークがありません。

 

 

 

 

 

前から撮った裾。

前身頃はラウンド。

後身頃はスクエア。

 

さっきも言ったけど。

 

 

 

 

 

 

そして、やはりこの生地。

 

全てコットン100なのですが、グラウンドの白い生地は、絣系の生地では絶対に使われることのないレベルの細い番手、なおかつ、毛羽立ちがないし、今後も起こらないようにガス焼きっていうので、糸に微量に存在する毛羽立ちも焼き切った、かなりクリアな生地。

その細く、毛羽立ちのない、超透明感ある糸をバチバチに打ち込んでる生地です。

だから、いわゆるかなりの高密度生地ではあって、触った瞬間に、相当なタフさを感じてもらえると思うのですが、糸そのものが細いから、バキバキに硬いような生地ではないの。

 

そして、それをベースに、太さがそれぞれ違う”絣”の赤い糸、黒い糸を複数種類入れてる。

 

だから、一見するとデジタルプリントかのような見え方のチェックです。

 

鮮明だし、絵に描いたような柄のニュアンスだから。

 

まあ、実際には織り生地だから、デジタルでやったようなフラット感は全然ない。

 

結構迫力があると思う。

 

 

そういう生地です。

 

 

ホントはマイクロスコープしたかったんですけど、パソコンの都合で今日はできませんので、手にして頂いた方は、生地に顔面をこすり付けて見て。

 

 

 

 

 

そして、このシャツ。

 

生地はすごくレベル高いんですが、皆様に紹介したいディテールがいくつかあるから、それを今日はお伝えさせて頂きますね。

 

山内の山内さんがやってることがすごく現れてるから。

 

めっちゃ細かいの。

 

 

 

 

 

 

まず、衿。

山内の洋服は、全てが左右非対称です。

この衿も同じに見えるけど、左の衿に対して、実は、右が1mm大きい。

 

その理由は、ボタンを全て留めた時。

 

ボタンを留めると、左が上(前)、右が下(後ろ)というようになるじゃないですか。

 

そうなると、人間の視覚的に、僅かに前の方が大きく、後ろの方が小さく見えるそう。

遠近法みたいな。

 

しかも、フロントボタンを全部留めるとなると、ある程度きっちりと着ることを考えて着るじゃないですか。

その時に、きっちりと着てるのに、左右の衿の大きさがチグハグに見えると台無し。

 

だから、衿が左右均等に全く同じ大きさに見えるように、細かいけど1mmずつ大きさを変えてる。

 

もちろん、1mmの違いだから、ボタンをオープンにして衿同士が離れた時にも、衿の大きさが違って見えないような設定をしてる。

 

 

 

 

 

 

そして、衿だけじゃなく、その周囲も。

 

第一ボタンと第二ボタン。

 

シャツってこの第一、第二ボタンの間に、特有の生地の浮きというか、シワのような、たるみができるじゃないですか。

衿や台衿の重みで生地が潰れちゃうっていうか。

 

どうしてもシャツって、この箇所には、生地のたるみが出てしまうのが構造上仕方がない。

 

ただ、その生地のたるみを解消しようと設計されてるのが、山内のシャツ。

 

複数箇所にそれを目指した設計がある。

 

 

 

 

 

 

まず、ここ。

台衿箇所に入る第一ボタンのホール。

 

皆様のお持ちのシャツと比べて、見てもらえたら違いが分かると思うんですが、このボタンホールの角度がフツーじゃない。

 

この箇所のボタンホールは、通常、台衿パーツの角度と平行にホールを開けるのがセオリー。

 

ただ、山内のシャツは、そうじゃなく意図的に角度を変えて開けてるんですよ。

 

そうすることで、第一ボタンを留めた時に、ボタンがホール内で上下動せず、生地のたるみの原因を抑制してる。

 

 

 

 

こういうこと。

 

通常はね、第一ボタンのホールは、真っ直ぐ見た時には、右上がりになってるのがセオリー。

 

加えて、この台衿のパターンも左右で大きく非対称で、分解すると、左側の台衿端がつり上がるような形状をしてるそうです。

 

 

 

 

 

 

更に、この第一ボタンと第二ボタン。

それに伴う、ボタンホール。

 

ボタンの付く、”右前身頃”。

ホールの開く、”左前身頃”。

 

この第一と第二の距離も左右で違うの。

 

その差、

 

2mm。

 

 

ボタンホールの開く、左前身頃。

 

この第一ボタンホールと第二ボタンホールが、右前身頃の第一ボタンと第二ボタンと比較して、2mm、その距離が短い。

 

それは、左身頃の生地の浮きを軽減させるため。

 

でも、ボタンを開けた着用時も不自然ではない違いにしてる。

 

 

 

 

 

 

次は、この裾。

 

裾の”前合わせ”。

 

 

 

 

 

この前合わせの裾の部分だ。

 

 

 

分かりやすい写真をご覧ください。

 

 

 

 

 

横から見たもの。

 

左前身頃の裾が、少しだけ飛び出している。

 

そう。

 

左前身頃の裾が、右前身頃の裾よりも、、

 

 

2mm

 

 

長くつくられてるの。

 

 

これは、左と右が重なった時に、同じ寸法値だと、本来だと重なって見えないはずの右前身頃が、下からニョキっと覗くケースがあるから。

 

男性服は、左前と決められている厳密なルールがあるのにも関わらず、その下から右前裾が見えてしまうのは不恰好。

 

漢の服はきちんとつくられているべきだ。という山内さんの考え方の現れ。

 

 

衿は右側が1mmずつ大きく、

ボタンホールは左側が2mm間隔が狭い。

そして、釣りあがった形状の左台衿に、そこに開けられるボタンホールの角度。

 

に加えて、左側の方が裾が2mm長い。

 

ブランドとして、13年?だったかな。

 

山内さんの洋服づくりのキャリアは、もっともっと長いけど。

 

ブランドとしては、それくらい洋服をつくり続けてるけど、常に細かい数値での向上を図り続けてるんですよ。

 

山内の山内さん。

 

 

今の国内の洋服市場だと、若いブランドがどうしても多いから、そこまでの追求に及ばない、というか及べないものばかりだけど、山内の山内さんは、僕はやっぱり全然レベルが違うと思ってる。

 

 

まあ、全然別の話だけど、洋服ブランドは、”5年”という時間が一つネックになってくる。

 

なぜならば、消費が激しい世の中で、5年保てば洋服ブランドは、良い方というか、5年を越えたらその先が見えるって言われてる。

 

中には、突如として名前を聞いて、急激に人気が出てるようなブランドでは、作為的に”5年間だけ”ブランド運営を目指してるようなものもあるみたいだけど。

 

そういうファッションマーケットでは、経験と技術の積み上げが難しくなってしまいますよね。

 

まあ、一見して、”拘ってるように見せてる”ブランドだってあるくらいだから。

 

ほんと、いろんな側面がありますよ。

 

 

 

 

話を戻して、、

 

 

 

 

時には、”硬すぎる”洋服をつくってるとも受け取れる”山内”だけど、そこには”着て使っていく”ということが大前提にあるんですよ。

 

着て、洗って、乾いたらまた着る。

 

そういうことを繰り返していたら、次第に服そのものに皺は入るし、多少生地は柔らかくなるし、必ず変化は起こる。

 

だから、山内の山内さんは、製品として、とてもきちんとつくるんですよ。

 

その磨かれに磨かれた技術を反映させた洋服をつくり、それを手にしてもらった方にたくさん着てもらう。

 

そういう耐久性だったりとか、意図的なことがあってこういう洋服をつくってるんですよ。

 

1mmとか、2mmとか、左右で非対称で、そんなこと言わなかったら誰にも気付いてもらえないようなレベルだけど、それが山内のクオリティ。

 

あと、パターンの設計の段階で1mmくらい寸法を変えても、技術のない人が縫ってしまうと、一瞬でその1mmの差が消えて、なかったことになってしまう。

 

だからこそ、技術ある縫製者さんに縫ってもらう必要がある。

 

決してアルチザンブランドとかではないけど、とにかく細かくて、洋服づくりに向き合ってると思う。山内の山内さん。

 

まあ、僕は、そういう山内の服をテキトーに着て、使って洗ってグチャグチャにするのが好きなんですけどね。

 

新品の硬さがとれて、着古した山内の洋服が一番輝くかな。

 

 

 

 

 

 

 

着丈が長い分、サイドにはスリットが入ります。

 

 

 

 

 

 

これ。

このスリット部分の裏。

見て。

 

生地が

 

 

消えてる。

 

 

 

 

 

 

裾の三つ折り処理が身頃脇のシームの中に一体化されてる。

 

いろんなスリットの処理があると思うけど、これはかなり優秀だと思う。

 

 

 

 

 

裾裏の三つ折りもとても綺麗な縫製。

 

 

 

 

 

袖。

角が立ったカフスで、剣ボロ付き。

 

 

 

 

 

 

そして、この剣ボロ裏の処理。

きちんと三角形に折りたたまれてるし、フツーは生地端が出たりするけど、これ超優秀。

 

剣ボロ裏は、いろんな方法があるんですけど、山内のこのシャツは、むちゃくちゃ綺麗な処理。

 

あと、山内の他のシャツでは、二枚袖の切り替えを利用した剣ボロが多いので、これは山内の中でも珍しい仕様ですね。

 

 

 

 

 

 

そして、このシャツ。

山内の山内さんが考案した”Zスリーブ”という肩の形状になってる。

 

山内の洋服で前から見たときに、ドロップショルダーはNGだから、前身頃の肩線はジャストショルダーに。

 

でも、気持ちゆとりのあるサイズバランスだから、後身頃の肩線は、少しズラしてる。

 

それで、アームの切り替えとそれぞれの肩線の縫い代をつなげて”Zスリーブ”と呼んでる。

 

 

 

 

 

 

これ、Zスリーブの箇所の裏の写真です。

丸みの強い肩の部分で、何枚もの生地が重なるけど、むちゃくちゃ細かいステッチワークで難なく縫われてる。

 

随所の縫製は、折り伏せ縫いなのですが、とにかく細かい運針。

 

ここ数年では、生産の都合上、とにかく細かいピッチを追求されていた洋服市場からだんだんとここまでのレベルの縫製が消えつつあると思います。

 

数年前だったらいろんなブランドの服で、すごく細かい運針の洋服ってあったんだけど、今それをやり続けられるブランドが少なくなってきてるように思いますね。

 

服を見てると。

 

少なくとも当店では、取り扱いブランドで、運針の細かさだけ見ると1位は山内です。

 

ちなみに、2位はAraki Yuuかな。工場生産ではなく、自分で縫ってるから。

 

 

コロナの状況になってもう何年か経つけど、洋服の生産の現場は簡単にはいかなくなってる。

 

だから、山内の山内さんがやってることは、現場の技術をつなぎとめることもだし、”ファッションだけど、ファッションじゃない”要素もすごく強く持ってると思う。

 

 

 

 

 

 

 

そして、今回の縫製は、いつも通り、埼玉県のファッションいずみさん。

 

やっぱりね、ファッションいずみの縫製テクニックは、素晴らしいですよ。

 

技術はもちろんだけど、それだけじゃない。

 

こんな運針だったら全然ミシンも進まないけど、それをきちんとやり切ってる。

そういう気持ちも持ってる縫製工場。

 

細かいし、簡単にできないから、つくるのにも時間かかるし、大変だけど、その分、みんなが責任と自信を持ってつくってるから、着る人にとっては、いろんな恩恵があると思いますよ。

 

 

これから迎える真夏には難しいかもしれないけど、まあ、長〜い目線で考えて下さい。