日本の綿織物の産地。

 

遠州(えんしゅう)。

 

静岡県の西部に位置するこの一帯は、江戸時代から綿織物の生産が行われ、今でも数こそ多くないもののいくつかの機屋さん、加工場さんなどが存在する地域。

その外れに位置し、古くは、天龍社(てんりゅうしゃ)産地と言われた掛川市。

 

綿織物を生産する会社が盛んに存在していた1955年から創業し、今なお残り続ける”カネタ織物 株式会社”。

 

その特殊生地の生産背景から、どんなブランドとも取引をするということはないそうで、でも、その代わりブランドが何を目指し、どんなことを考え、何を生み出そうとしているのかを重要視し、具現化している機屋さん。

 

綿織物と言っても、原料となる綿(わた)の種類や生産地、それを収穫する際には手摘みにするか機械摘みにするのか、更には紡績する方法、撚糸回数、単糸なのか双糸なのか、番手は太い3番手〜200番手と細番手のバリエーション。

糸をつくるだけでもこれだけの選択肢。

 

もっと言うと、そこから織りの工程となり、

織りの組織は、平織り、綾織り、繻子織り、多重織り、それに加えて、経糸密度と緯糸密度、その経緯の密度比率。

極めつけには、染色工程、先染めや液流染色、シルケット加工の有無、樹脂など。

 

一般的にはわからないような違いもありますが、そのどれか一つ違うだけでも完成した生地の風合いは全く違うものになり、洋服ブランドが求めるものを理解してズバリ表現し、この先も研究開発することを目指している、とても創造的で発展的な機屋さんです。

 

当店でもたくさんではないですが、皆様が手にしてくれているいくつかのブランドの生地は、このカネタ織物さんで製織をされたものが存在します。

 

僕もそうとは知らずに仕入れしていた洋服がカネタさんが手がけた生地だったことが何度もある。

 

 

 

 

 

 

2021年、春。

新幹線、掛川駅。

 

ここで、カネタ織物の太田さん、そしてとあるブランドと待ち合わせ。

 

 

 

 

 

掛川駅から車で進むとそこは山道。

 

 

 

 

緑が深い山を越え、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには海が近いのか風力発電やのどかな風景が広がる一帯。

 

 

 

 

 

そこに位置するのが”カネタ織物 株式会社”。

 

 

とてもシンプルに思えるけど、ハンパないモットーを掲げるカネタ織物さん。

 

「カネタ織物でしか織れない、他ではマネできないモノづくり」

 

今も昔も無数に存在する洋服地ではありますが、確かにその言葉の通り、カネタさんのつくる生地は圧倒的。

 

初めて目にした時には完全に未体験だった。

 

未知との遭遇。

 

それがカネタ織物さんの生地。

 

 

 

 

 

 

広い敷地の一角にある建物。

ここがとてつもない綿織物を生み出す機場の入り口。

 

中に入るとすぐに感じるのが、屋外とは明らかに違う気温と湿度。

そして、たくさんの織機が稼働する大きな音。

適正に生地を織り上げるために徹底的に空調が管理され、ひんやりとしてるけど、じめっとした湿度の高さを体感した。

 

入り口から少し進むとその音が大きくなり、整列したたくさんの織機が立ち並ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

最も手織りの構造に近く、とても古い機械であるシャトル織機。

シャトル織機が22台。

レピア織機が3台。

 

日本の一大産地である遠州地域で、ここまでのシャトル織機を持つのはカネタさんのみ。

 

 

 

 

 

生地の幅が狭く、最もスローペースで、素材の風合いを引き出し、深みのある生地を織り上げることができるシャトル織機。

綜絖(そうこう)により、経糸が交互に上下動し、その通り道に一本ずつ緯糸が挿入されて生地が織り上げられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、地道に時間をかけて織り上げられる50m前後の生地。

これを一反(いったん)と言います。

 

 

 

 

緯糸が入る前のシャトル織機にセッティングされた経糸。

この経糸を一本ずつ織機にセットすることを「経通し(へとおし)」と言う。

 

この経通し。尋常じゃない、とてつもない作業。

写真に写る夥しいほどの数の糸を全て手作業で通していくから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その機場の一角にはこのような雪が積もったような織機が並ぶ。

シャトル織機は、とても古い機械なので、今の便利な機械のようにボタン一つで普通に稼働させることができないものです。

織機の不具合が発生することもしばしばで、フルでは使えない織機でも保有し、使えるパーツを交換し、長年の経験のある職人さんがとても精緻な調整で稼働をさせる超絶アナログな機械です。

だから、雪が降り積もったようなシャトル織機が複数台並び、その景観もとても神秘的ですが、壮観。

 

 

このように書いていると単に変わってるものをつくってるだけに感じられるかもしれませんが、カネタさんのつくる生地は、単に個性的なのではない。

 

使う素材の潜在能力を最大に引き出し、最高に輝かせる。

 

“綿織物”のしかも”無地”という、文字だけ見ればどこにでも存在する種類。

でも、軽薄で単調で、簡単なテクスチャーではなく、惹き込まれ、魅了され、見れば見るほど、触れば触るほど感じられるその深い、深い、奥行き。

 

超数学的、算数的な理論と気合い、忍耐、情熱で生み出される素晴らしい生地。

 

とても感動できるものをつくりあげることができるのが「カネタ織物」さん。

 

これ、本当にそう思う。

 

「織物だけ」というとても限られた分野で、「織物の難易度」に挑戦し、絶対に他の機屋さんでは不可能な、”超強撚”・”超高密度”、そして最近では”超細番手”までも試み、今でも高い難易度にトライし続けているそうです。

 

僕は自分の好みということもあるけど、日本の綿織物でダントツの一位がカネタさんだと思ってる。

 

最大の特徴である、

 

“超強撚”

“超高密度”

 

この二つ。

 

そもそも”強撚(きょうねん)”というのは、このブログでも何度も書いてきたことではあるのですが、綿を「繊維」から「糸」にするために行う「紡績」というものがあります。

その紡績をするときに、綿繊維に撚り(ひねり)を加えるのですが、それを1メートル辺り何回撚っているか、何回糸が回転しているかで、糸の種類が三段階に分類されます。

 

・弱撚(じゃくねん)、甘撚り(あまより)

・普通撚り

・強撚(きょうねん)

 

当然、撚りを加える回数が少なければ少ないほど字の通り、甘くなります。

甘くなると、柔らかくふんわりとし、毛羽立ちが多くなり糸が太くなる。

 

反対に、回数が多ければ多いほど、糸が締まり強くなり、ハリ、ツヤ、コシが生まれ、糸が細く、縮れてくる。

 

弱撚になると1メートル辺り、500回転以下。

普通撚りに1メートル辺り、500回転〜1000回転。

強撚になると1メートル辺り、1000回転〜2500回転と言われます。

 

そして、先述のように強撚になればなるほど、糸がストレートで真っ直ぐな状態ではなく、”縮れた”状態になってきます。

カネタさん曰く、強撚糸になると織ることができるハードルは格段に上がり、別格に困難になるそうです。

 

そのようなハードルが上がる強撚糸でつくられた生地ですが、確実にその恩恵はあります。

メリットがたくさんあると僕は思っていますし、その一般的なものを挙げると結構あるので少し羅列すると

 

・ツヤがあり高級感がある・コシがある・滑らか・強い・ヘビーユースできる

・ハリがある→ハリがあるため、・洋服の形がはっきり出る・シワになりにくい

・細い糸ができる→たくさんの糸を使う→生地に重みが出る→ドレープが出る→美しいラインを出すことができる

 

などが言われます。

 

 

 

しかし、ここからが本当のカネタさんの凄みの世界。

 

カネタ織物さんの技術のもっと踏み込んだところ。

 

よく読んで頂けるとカネタ織物さんの凄まじいオンリーワンの理由が理論的に分かる。分かる方には。

 

僕も学生時代に少しだけ学んだ以来のことではありますが、とても勉強になるので改めて。

 

 

そもそも糸には、その”撚り方向”があるんですよね。

なんでも捻るときは、そうじゃないですか。どっちかに回す。

 

・S撚り(右撚り)

・Z撚り(左撚り)

 

この二つが糸を捻る時に言われること。

“紡績”の際にも、単糸を組み合わせて”双糸”にする際にも、方向がある。

 

基本的には、”繊維を糸にするとき”に撚る方向は、左回りです。

それが「Z撚り(左撚り)」といい、糸(単糸)は基本的にZ撚りで形成されます。

 

強撚というのは、紡績時に強撚にする方法ももちろんですが、

 

“糸を撚り合わせる = 双糸にする”ときにその撚りをどれだけ強くするのかということ、更には、

 

「単糸を撚り合わせる時にS撚り(右撚り)なのか、Z撚り(左撚り)で双糸にするのか」

 

ということがとても重要なキーワードになってくる。

 

 

そして、強撚の糸を使った生地には、3種類が存在します。

 

一つ目。

紡績の際に強い撚りをかけ、更にそこから本強撚を行った、「単糸強撚」のもの。

 

二つ目。

Z撚りをかけられた単糸二本を組み合わせて、S撚り(右撚り)に強く撚りをかける双糸強撚、「ZS強撚」のもの。

 

三つ目。

Z撚りをかけられた単糸二本を組み合わせて、単糸の方向と同じ、Z撚り(左撚り)に強く撚りをかける双糸強撚、「ZZ強撚」のもの。

 

 

以上の三つ。

 

それぞれ特徴はあるそうですが、カネタ織物さんで織り上げる生地は、ほとんどが「ZZ強撚」のものだそうです。

 

そして、この「ZZ強撚」、最も強烈なタッチとなり、それゆえに他の二つと比べても段違いに取り扱いが難しい糸だそうです。

難しい糸となる理由は、ZZの場合、紡績の際に左撚り、そして撚り合わせる撚糸の際にも同方向で撚るために、単糸同士により締まりが生まれるのに加え、二本の糸が滑りやすいというのを聞いたことがある。

 

対して、「ZS強撚」の場合は、Z単糸の二本をそれぞれ紡績時とは反対方向であるS撚り(右撚り)に撚り合わせることによって、単糸同士の撚りの力を打ち消し合うため、強いタッチにはならず、取り扱いも簡単だそうです。

だから、撚糸回数が2000回だろうが、2500回だろうが「ZS強撚」の場合は余裕なんだって。

つまりは、一概に強撚の撚糸回数だけが重要ではないということです。

 

 

ただ、カネタさんではこれまでに「ZZ強撚」でありながら、3000回転もの生地を織り上げたことがあるそう。

これヤバい。

 

しかしながら、それでもなお、カネタさんが行う「ZZ強撚」自体はカネタ織物さん以外でも複数存在するみたい。

 

カネタさんの圧倒的頂点なポイントが、その「ZZ強撚」が施された”超強撚”の糸を使い、

 

“超高密度”

 

に織り上げることができるということ。

 

 

このレベルが人類では前人未到。

 

“高密度”という条件が加わると、織り上げるハードルが跳ね上がるそうで、他社ではここまでのクオリティは不可能だそうです。

 

 

まあ、単純に高密度で織った生地は世の中にたくさん存在しますが、見渡してみれば、”超強撚糸”で”超高密度”というものは、ほとんどの方が目にも、耳にもしたことがないんじゃないかな。

それに「ZZ強撚」でのそういうのはカネタさん以外ではあり得ません。

 

多くの方が未知とも言えるような生地を生み出すのがカネタ織物さん。

 

でも、それを実現するのには、とても簡単なことではないのは誰もが想像できると思うし、想像できないような膨大な時間をかけて生み出した、完全な独自技術。

 

洋服が好きな方、特に生地が好きだって思ってる方は、カネタさんの生地、知っておくべきものだと思います。

 

「超職人の世界」

 

前回のブログで、洋服って”人生が変わる”もの。

 

ということを書きましたが、まさにその一つです。

 

店頭にご来店頂くお客様にはよくお話するのですが、洋服というものはただ単に”着るだけのもの”ではないと思ってる。

 

特にこのブログをご覧いただいている方は、こういうものがきっと好きで、こういうものへの価値観の基準がある方々だと思う。

 

洋服で人生が変わるなんて大袈裟な言葉に思われるとは思いますが、真にきちんと情熱を持ってつくられたものは、心に訴えかけるものがあり、必ず何か”感じられるもの”があるはずです。

 

それはきっと人生にとってプラスに影響することだと思うし、誰もが知り、生まれながらにして常に身近に存在する”洋服”というもので、”こんなことができるんだ”と知ってもらえることは、洋服の小売店としてすべき役割だと思います。

 

今回、カネタ織物さんにとても時間をかけて、手をかけて、とても困難なことに挑戦して頂くことができ、絶対にこの世にこれまで存在しなかった素晴らしい生地が完成しました。

 

この生地が出来上がったとき、感動を越えました。

 

先述の通り、”洋服でこんなことができるんだ”ということを感じてもらえると思います。

 

 

僕の感性が求めるものと、今回カネタさんとの架け橋をしてくれたブランドとの感性がバチバチにぶつかり合いました。

 

 

AUBETT。

 

 

カネタ織物さんじゃないと生み出せないもの、AUBETTとじゃないとできないものが完成しました。

 

 

 

 

 

 

続く。